血圧が高い
「血圧が高い」から内科に通院してる方、「降圧薬」を処方されている方は、全国に4000万人いると言われています。「高血圧」は日本で最も罹患している人が多い病気、といっても過言ではありません。 しかし一方、高血圧で具体的な症状……たとえば頭が痛いとか胸が苦しい……に悩んでいる人は殆どいません。「健康診断で血圧が高くて、このままじゃ大変なことになると言われたから……」といった理由で通院されている方が多い印象です。もちろん「脳梗塞や心臓病のリスクを下げるため……」といった理由を把握した上で治療に臨んでおられる方が大多数ですが、より明確な目標をもって予防・治療に取り組むため、高血圧とはどういう病気なのか、当院ではどういう方針で治療を進めていくのか、について説明させていただきます。
『定義』高血圧とはなにか? どんな病気なのか?
診察室血圧
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |||
---|---|---|---|---|
正常範囲内 | 正常血圧 | 120未満 | かつ | 80未満 |
正常高値血圧 | 120〜129 | かつ | 80未満 | |
高値血圧 | 130〜139 | かつ/または | 80〜89 | |
高血圧 | I度高血圧 | 140〜159 | かつ/または | 90〜99 |
II度高血圧 | 160〜179 | かつ/または | 100〜109 | |
III度高血圧 | 180以上 | かつ/または | 110以上 | |
(孤立性)収縮期高血圧 | 140以上 | かつ | 90未満 |
高血圧とは何か? を説明する前に、「高血圧緊急症」について説明します。下記に該当する高血圧の場合、直ちに治療しないと生命に関わる危険性があるため、当クリニックでは対応が難しいことが多いです。救急車等を呼んで、急性期病院での治療をするようおすすめします。
高血圧脳症:意識を失ったり、痙攣 (けいれん) を起こしたり、過去に経験がないような強い頭痛を伴う高血圧
急性の臓器障害を伴う高血圧:脳出血やくも膜下出血、心筋梗塞や急性心不全、大動脈解離などを伴う高血圧
妊娠に伴う高血圧:妊娠中に収縮期血圧180以上、拡張期血圧120以上になったり、子癇 (しかん) といって痙攣発作 (けいれんほっさ) を起こしたりする高血圧
その他特殊な病気に伴う高血圧:緊急手術の前後や、褐色細胞腫 (稀なホルモン異常疾患) に伴う高血圧
高血圧緊急症ではない、いわゆる普通の高血圧に関して、日本高血圧学会が出している「高血圧ガイドライン2019」では、診察室や健康診断で測った血圧により、表のように分類しています。基本的には「収縮期血圧 (高い方の値) が140以上」または「拡張期血圧 (低い方の値) が90以上」の場合、「高血圧」と診断されることになります。
『心血管リスク』高血圧をなぜ治療せねばならないのか?
高血圧をなぜ治療すべきなのか、については、次の研究結果のグラフ (EPOCH-JAPAN研究、慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 岡村智教先生他) をみていただくと一目瞭然です。
正常血圧の方が心血管病で亡くなるリスクを1とした場合、I度高血圧の方は3倍、II度高血圧の方は5倍、そしてIII度高血圧の方はなんと9倍近くの危険を負っているということが分かります。
このようなリスクの増加には「動脈硬化」が関与していると考えられます。正常血圧の方と比べ、高血圧の方の血管には、常に高い圧力が加わっており、その分血管の損傷・老化が進みやすいと考えられます。そして、血管は全身くまなくを巡っているので、動脈硬化の影響も全身臓器に及びます。特に脳の血管が脳梗塞・脳出血を起こしたり、心臓の血管が狭心症・心筋梗塞を起こした場合、死の危険に晒されることとなります。糖尿病や喫煙歴、脂質異常 (コレステロールや中性脂肪が高い) など、高血圧以外にも動脈硬化の原因となる病気をもっている場合、脳血管病のリスクは更に跳ね上がります。このような危険を減らすためにも、「症状がなくとも高血圧を早期治療すること」が大切なのです。
『治療』高血圧と診断されたらどうすべきか?
高血圧と診断されたら、まずは生活習慣の見直しから始めましょう。食事に含まれる塩分を減らす (減塩)、適正体重の維持、運動習慣の定着、喫煙の完全な禁止などが基本となります。しかし、生活習慣の改善だけでは十分でない場合が多く、その時は薬物療法を導入する必要があります。
高血圧の治療薬として使われる薬 (降圧薬) には、さまざまな種類があります。血管の筋肉 (平滑筋) を緩めて柔らかくする作用があるカルシウム拮抗薬、血管を収縮させるホルモン系の作用を弱めるACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB)、尿量を増やすことで血管内の水分量・塩分量を減らして血圧を下げる利尿剤、交感神経という血圧を上昇させる自律神経の働きを弱める作用のあるベータ遮断薬、などがあり、患者さんの合併症の有無で使い分けています。
単独でコントロール不良の場合は、2剤や3剤の併用を行います。それでも目標に達しない場合は、薬の種類や量を変更したり、新しい薬を追加したりと、薬物療法を工夫していきます。
治療がうまくいっているかどうかを判断するのには、家庭血圧の測定が大切です。「高血圧ガイドライン2019」では、家庭血圧によっても下の表のように分類されます。
家庭血圧を測定する際には、いくつか注意すべき点があります。
- 時間を決めて測定:朝であれば、起床後1時間以内で、排尿後や血圧の薬を飲む前など、毎日同じタイミングで測れるよう習慣づけることをおすすめします。夜であれば、入浴や飲酒などをすませた就寝前、1〜2分安静にして息を整えた後での測定、が良いでしょう。
- 測定回数は複数回:忙しいとは思いますが、可能であれば2回以上測ることをおすすめします
- 記録を残す:治療効果を実感したり、次の診察で相談するためにも、毎日測定して記録に残すことをオススメします。手帳などに記載いただくのも良いですし、スマホのアプリ等を利用されるのも良いかも知れません。自分が取り組みやすい方法でがんばってみましょう。
家庭血圧
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |||
---|---|---|---|---|
正常範囲内 | 正常血圧 | 115未満 | かつ | 75未満 |
正常高値血圧 | 115〜124 | かつ | 75未満 | |
高値血圧 | 125〜134 | かつ/または | 75〜84 | |
病気(高血圧) | I度高血圧 | 135〜144 | かつ/または | 85〜89 |
II度高血圧 | 145〜159 | かつ/または | 90〜99 | |
III度高血圧 | 160以上 | かつ/または | 100以上 | |
(孤立性)収縮期高血圧 | 135以上 | かつ | 85未満 |
高血圧を放置していると、脳卒中や心筋梗塞、心不全、腎不全など、様々な重大な合併症を引き起こす危険性があります。一方で、血圧をしっかりとコントロールできれば、これらの合併症の発症リスクを大幅に下げることができます。実際に、多くの大規模研究でその効果が確認されています。
患者さん一人ひとりの生活環境や体質は異なりますから、高血圧治療は決して簡単ではありません。しかし、医師と患者さんが協力し合い、じっくりと粘り強く取り組んでいけば、必ず良好な管理ができるはずです。健康で質の高い生活を送れるよう、一緒に頑張っていきましょう。