息切れ
息が切れる、という表現で苦痛を訴える方は多数いますが、実際の症状は多様です。何もしないで安静にしていて苦しい方もいれば、家にいるときは平気だが外に出て歩いたり運動するとすぐ苦しくなるという方もいますし、夜寝るときや横になる際だけ苦しくなる方もいます。詳しく内容を伺うと、息切れと言うよりも、動悸や胸痛に近い症状の方もいます。
どの種類の息切れに該当しようと、症状を感じている患者さんの不安や苦痛に十分配慮することが重要です。当院では、まず安心できる環境を整え、看護師・検査技師などの医療職がゆっくりと話を聞くことから始めます。初期評価としてバイタルサイン、酸素飽和度 (SpO2)、心拍数、血圧、体温を確認することで、本当に体内に酸素が足りないのかどうか、緊急性があるのかどうか、を把握します。
落ち着いて対応できそうな状態であれば、次に挙げるような病気を念頭に、診察と検査を進めていきます。
息切れの原因
- 心不全: 心筋梗塞や弁膜症、不整脈や心筋症などの循環器疾患で心機能が低下し、心臓が十分に血液を送り出せない状態です。これにより、体に十分な酸素が行き渡らず、息切れを感じることがあります。肺に水分が溜まって「肺うっ血」や「胸水」という状況になるため、夜間や横になった際の息切れを訴える方が多いです。
- 気管支喘息: 気道が炎症を起こして狭くなり、呼吸が困難になる病気です。ゼーゼーやヒューヒューという音とともに息切れを感じることがあります。発作やヒューヒュー感がないが頑固な咳が続く「咳喘息」というタイプもあります。
- 肺炎: 肺に細菌・ウイルスなどが入り、炎症を起こす感染症です。発熱や咳とともに、息切れを感じることがあります。
- 慢性閉塞性肺疾患 (COPD): 長年の喫煙などにより肺の機能が低下する病気です。徐々に進行し、息切れが悪化していきます。
- 貧血: 血液中の赤血球や鉄分が不足する状態です。体に十分な酸素が運ばれないため、息切れを感じることがあります。
- 不安障害: 強い不安やパニック発作により、過呼吸や息切れを感じることがあります。
- フレイル: フレイルは、高齢者に見られる脆弱性の増加した状態を指します。身体機能や認知機能の低下、社会的孤立などが複合的に影響し、様々な健康問題を引き起こす可能性があります。
診察・検査
上記のような疾患を念頭に、当院では以下のような流れで、咳の原因を推測し突き止めます。
- 詳しい問診:息切れの性質、生活習慣、既往歴などをお聞きします。
- 身体診察:聴診で心音や肺音を確認し、喘鳴やラ音の有無を調べます。心不全に特徴的な下腿浮腫についても評価します
- 呼吸機能検査:肺の働きを調べ、喘息やCOPDの診断に役立ちます。
- 胸部X線検査:肺炎や肺癌などの肺疾患の有無を確認します。心不全で出現する肺うっ血や胸水、心拡大の有無も評価できます
- 血液検査:炎症反応や感染の有無、アレルギーの状態などを調べます。
- 喀痰検査:必要に応じて、痰の中の細菌やウイルスを調べます。
- 心電図検査:心不全の原因となりうる心疾患がないか検索します。
これらの検査結果を総合的に判断し、最も可能性の高い原因を特定していきます。原因が分かれば、それに応じた適切な治療を行います。
「フレイル」と息切れ
高齢化社会で注目されつつある「フレイル」と息切れは、密接な関連があります。
筋力低下、特に呼吸筋の衰えにより、息切れを感じやすくなります。活動量の低下・体力の低下により、わずかな活動でも息切れを感じることがあります。適切な栄養摂取ができていないことで、全身の機能低下を招き、息切れの一因となることもあります。
フレイルの診断のため、上記を念頭に、握力測定、歩行速度の評価 (歩行者用信号を時間内に渡りきれないようであれば、フレイルの可能性があります)、体重減少の有無、疲労感や活動量の確認、認知機能の簡易評価を組み合わせ、複合的に評価します。
息切れの原因には様々な可能性があり、年齢や生活状況によっても影響を受けます。フレイルという、年齢とともに起こる体の脆弱性も息切れの一因となることがあります。当院では,患者さんの全体的な健康状態を評価し、息切れの原因を特定するために必要な検査を行います。そして、その結果に基づいて最適な治療や生活改善の方法を提案します。