失神・意識を失う
失神とは、一時的に意識を失い、自然に回復する状態のことです。様々な原因で起こりますが、中には重大な心臓の問題が隠れていることもあるため、適切な検査と評価が重要です。本ページでは、失神で当院を受診された際、スタッフがどのような疾患を念頭に置き、どのような診察・検査を進めていくのか、説明しようと思います。
失神の原因
失神の原因は様々ですが、重症度・頻度・原因臓器などで分類すると、主なものは下記となります。
- 心原性失神:心臓の不調で、脳に十分な血流を送ることができなくなって、失神することがあります。原因としては、不整脈(徐脈、頻脈)、虚血性心疾患 (心筋梗塞、狭心症)、弁膜症 (大動脈弁狭窄症など)、心筋症 (肥大型心筋症、抗癌剤投与後の心筋傷害など) が挙げられます。
- 脳・神経疾患:脳卒中(脳出血、脳梗塞) や、その前段階であるTIA (一過性脳虚血発作)、てんかんなどは、失神の代表的原因の1つです。診断にはCT・MRI・脳波検査等が必要となりますので、適宜連携機関と協力して対応させていただきます。
- 血栓症:下肢にできた血栓が肺に飛んで詰まる肺動脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群) や、心房細動が長時間続いた後で左心房内にできた血栓が脳に飛んでおこる心原性脳梗塞などは、失神の原因として重要です。
- 神経調節性失神:血管迷走神経性失神(一般的な「立ちくらみ」など) や、頸動脈洞過敏症候群、起立性低血圧などが含まれます。脱水や熱中症、自律神経障害の影響や、薬剤の影響で発症することもあります。
- 代謝・内分泌疾患:糖尿病の高血糖・低血糖や、一部のホルモン分泌異常も、失神の原因となります。
- 精神疾患:パニック障害や過換気症候群による失神は、比較的頻度が高いです
診察・検査
前項の疾患を念頭に、当院では以下の流れで診察と検査を進めます。
- 詳細な問診:失神の状況や前兆症状から可能性の高い原因を絞り込む目的で、失神の頻度、持続時間、前兆症状、姿勢、誘因、随伴症状などの情報を集めます。
- 身体診察: 心血管系の異常や起立性低血圧・神経調節性失神の評価のため、血圧測定(臥位・座位・立位)、脈拍、心音・呼吸音の聴診、神経学的診察などを進めます。
- 12誘導心電図検査: 心原性失神の原因となる不整脈や虚血性心疾患を診断するため、循環器専門医である院長が、心拍数、調律、伝導障害、ST-T変化などを解析します。
- ホルター心電図検査: 診察室内では探知できない、日常生活中の不整脈の検出するため、24時間心電図を装着して過ごしていただきます。1日で10万拍近く拍動する心臓のすべてを記録に残すことができるので、診察中に出現しなかった心電図変化を捉えられたり、症状と心電図変化の関連付けができたりします。
- 血液検査: 失神の原因となり得る代謝異常や貧血の評価を行います。貧血に関しては、院内で検出可能ですので、即日結果を知ることができます。
- 超音波検査: 心エコー検査では、心原性失神の原因となるような先天性心疾患や弁膜症、虚血性心疾患がないか、微細に観察することができます。血管エコー検査では、失神の原因となるような血栓がないか確認することができます。
なお、てんかんや一過性脳虚血発作が疑われる場合は、脳波検査や頭部CT・MRI検査が必要になることがあります。原因不明の失神や、重症度の高い不整脈が疑われる場合は、植え込み型心電図レコーダーが有用なことがあります。これらの検査は当院では実施困難なため、必要に応じて近隣の連携施設・専門病院への紹介を行います。
生活上のアドバイス
- 十分な水分摂取を心がけましょう。
- 急に立ち上がらないよう注意しましょう。
- 症状が出そうな時は、すぐに座るか横になりましょう。
- 症状の記録(日時、状況、前兆など)を付けておくと診断の助けになります。
失神は怖い経験だと思いますが、多くの場合は適切な評価と対応で管理できます。心配なことがあれば、当院スタッフにいつでもご相談ください。検査の結果を見ながら、一緒に最適な対応を考えていきましょう。